グルメではないけど味覚音痴でもないと思うし、自他ともに認める食いしん坊だ。
それなのにどんなにおいしいものでも最後には飽きてしまう時がある、いや最近は毎回そんな感じだ。大好きなうどんでさえ、ちょっとためらったりする。特に九州特有の柔い太目の麺だと罪悪感とともに食欲が失せていく。
品数がいくつかあると好きなものは最後に取って置く主義だが、その頃には食べる前のワクワク感は消えている。贅沢だと思いながら、ワンコインの弁当だろうが5000円のランチだろうがなかなか最後まで味わうということがなくなってきた。
片付けのため二拠点的生活を続けている義実家の徒歩圏内に、それはそれはおいしいパン屋が出来た。店主は福岡の大濠公園の近辺で働いていて独立したそうだ。大濠公園と言えば福岡のおしゃれな店が立ち並ぶエリアのひとつだ。そんなパン屋が小さな街に出来たとなると開店9時から客が押し寄せる。オープンから1年経って種類も数も増えたが昼過ぎには、ほとんど残っていない。
その日は残っているのものの中から適当に選んで、ひとつだけをイートインすることにした。キャラメルクイニーアマンというおやつパンで、直径8㎝ほど、まぁるいパイのようで輝く薄いキャラメルがその周りを覆っている。値段はうろ覚えだが260円ぐらいだったか、もし都会で売るなら500円ぐらいでもおかしくはない。

(お店のInstagramより)
エスプレッソマシンのコーヒーが一杯無料といううれしいサービスもある。
路地に面したカウンター席に陣取り、ボーッと何も考えずにコーヒーとパンを交互に口の運んでいたように思う。表面をカリッと塩キャラメリーゼしてある甘いパンだ。多分、同じようなほかの店のものなら飽きるだろうが、最後の一口までほんとにおいしかった。ほろ苦い甘味が私の開いていなかった脳を刺激した感じだった。すると不覚にも真っ昼間の明るい店内でジワーッと涙が出てきた。「えっ?なに?」自分でも驚きすぎて、ヤバイヤバイと慌てて冷静さを取り戻し、帰る準備をする。背中を向けているし、誰にも気づかれてはいなかったはずだ。おしゃれなパン屋でおばさんがパンをほおばりながらひとり涙するとは世にもおそろしい光景だ。
おいしすぎて感激の涙なのか、いったい何だったのかさっぱりわからない。ただふとかすかに感じたのは、最近の悩みとは言えない小さなモヤモヤとしたものに蓋をしていたんじゃないかということ。何も考えていないようでも次々に降ってくる毎日の小さな決断や心配ごとに疲れていたんだろう。
そのカチカチの頭をパン屋の店主が心を込めて作ったであろうクイニーアマンが溶かしてくれたのだ。久しぶりに最後の一口までおいしいと思えた。
若い店員さんに「最後のひとくちまでおいしかった~。」と言うと「ありがとうございます。」と愛想よく見送ってくれた。
おいしいパン屋が近所にあるとその街に住む充分な理由になると誰かが言っていたのを思い出した。
Viennoiserie Selfish (ヴィエノワズリーセルフィッシュ)